勇気と想像力、そして少々のお金

きれいごとを言わない、をモットーにしてますが、時折言ってます。

吉本隆明の宮沢賢治評

宮沢賢治賞を受賞した時の講演内容を「ほぼ日」でまとめてくれていました。読み応えバツグンでした。感謝。そして‘ほぼ’抜粋、ということで。
http://www.1101.com/news/2009-10-05.html

「みなさんもご存知のように、我々は日常、人間と人間との関係あるいは自分が存在している社会との関係などを横の関係としてとらえています。
例えば隣の人、おなじ会合に出る人、社会組織に属してる人、政治組織に属してる人。人との関係を、我々はいつでも、横に求めていくわけです。

いちばん身近なのは、家族です。家族を元にした──つまり、人間の男性と女性の性の関係を元にしてできた家庭も、横に横にと、関係を求めます。そういう現実社会に、我々は住んでいると思います。

あらゆるものについて、横に横に関係を持っていって、そこから何ごとかを学んでいくのが人間であり人間の社会だ、というふうにぼくらは考えて、そのとおりだと思っているわけです。

だけど、宮沢さんははじめっから、関係は横に求めることよりも、縦に求めようじゃないか、それがもっとも特色のあることなんだ、という主張をしているようにぼくには思えます。

つまり、自分は銀河系の一員である、銀河系の、地球をめぐらしている太陽系の中の陸中のイーハトーブ(*「岩手」をもじって作った賢治の造語)、なんていうふうに宮沢さんは言っていると思います。人が、何を相手にして何と無言のうちに会話しながら、あるいは、ときには独り言を言いながら、何と関係してなんで生きているかというとき、宮沢さんは何よりも、それを縦にとらえているわけです。

となりの人と関係して、というよりも真っ先に、人は天の星と関係している、と考えているのです。ここは宮沢さんの非常な特徴であります。宮沢さんの思想というのは、そこから生まれてきたんです」

「それから、もうひとつ、宮沢さんが重要だと考えていたことがあります。それは、この現在自分がしゃべっていることに意味をつけてもらいたくないということです。単に、現在の宮沢賢治の考え方があるだけですよ、自分の現在性があるだけなんですよ、ということを、あらゆる著作や信仰で非常によく宮沢さんは考えておられると思います。それが、とても特徴的です。

このふたつのことをうまく説くことができれば、宮沢賢治が、どういう生き方をどういうつもりでやったのかがとてもよくわかるんじゃないでしょうか」

そして、宮沢さんは科学者でもありました。科学者でありながら、宗教家として自分を規定しているので、その両方で、考えをおし進めたり深めたりしていくと、科学と宗教のふたつを『分けることができない』という問題に当面しました。

これを、宮沢さんは、別の言葉で言おうとしてます。その言葉は、みなさんよく読んで見ると思いますが、『ほんとうのほんとう』という言葉です。

ひとつの考えがあって、それとは反対の考えがあって、それで国家と国家で戦争になったりすることは みなさん、ご自分でも体験してるでしょう。ぼくも体験してます。

だけど『ほんとうのほんとう』はどうだろうか。どちらかからもほんとうだと主張しながら、どちらもほんとうとは言えないみたいだ。これは、宮沢さんの言いたかったことのように思います。実際に、軍事的なこと、殺伐なこと、残酷なことに一切関与しないで、一生を過ごされたということは、そこからきてると思います」

飢饉があるときや、宮沢さんで言えば寒さの夏、穀物も野菜もあんまり発育できなくて少なくしか採れないことになったとき、宮沢さんは、一筋に、自分ができる限り、ほんとうに身をもって、農家のお年寄りの手を引くように、収穫の多かることを品質的に考え、肥料を土壌の性質に従って設計して与え、おじいさんやおばあさんが田畑を耕していたら必ずそばへ寄って手助けする、そういうことを本格的にやった人だと思います。

これは、宮沢賢治が持っている『ほんとうのほんとう』ということの実践というのでしょうか。実行というのは、ほんとうにこのことに尽きるわけです。

理論的に、こうだこうだと言って集団をつくって、いつまでも何もしない集団がたくさんありますし、ぼくらみたいに、やりもしないでなんか言ってるとか、そういう場合もあります。けれども、宮沢さんは、そういうことは全然ないんですよ。宮沢さんは『ほんとうのほんとう』を、地上からあるいは地下から、縦に関係を求め、これを自分の思想としているし、また、自分が現実に手足を動かして実行することもやります。

だから、ぼくはこれまで、いろんな人の悪口を言ってきましたけど、言わなかった人っていうのは、宮沢賢治ぐらいです」

分かりやすい人物評と、その人柄をなぞる様な吉本隆明の言葉にまったく惚れ惚れする。