永遠のゼロ
友人ダイシがふらっと店に寄ってきて「これ、貸すわ。いや、あげるわ」と置いていった本。どうもありがとう。
理由は、以前僕が話しに出したある方との邂逅に、よく似ているからとのことで。
- 作者: 百田尚樹
- 出版社/メーカー: 太田出版
- 発売日: 2006/08/24
- メディア: 単行本
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そのある方とのやり取りは過去のブログにある。Tさんとは、特攻兵器「回天」へ志願した方である。(ただ、志願という意味合いにおいては、この言葉の使い方が正しいとは思えないけれど、他にないのでご容赦を)
無念を抱えて生きる人(Tさんの話)
http://d.hatena.ne.jp/sap0220/20090816
この本を読み進めながら、それはTさんが語ってくれたことと驚くほど似通っていた。というか、それはつまり、著者の百田さんが綿密な情報収集をしたということに他ならないのだが。
ゼロ、とはゼロ戦のことだ。特攻のゼロ戦乗りとして最後は命を絶たざるをえなかった祖父を調べるために、数少ない祖父を知る方を訪ね歩く兄弟の視点で話は進む。
読みながら、まず、自分にはめずらしくゼロ戦という飛行機に魅了された。男の子のように「なんて凄いマシンなんだ」と感心した。プラモデルを買おうと思った。それほど、文章が巧みで、きっと百田さんもゼロ戦が好きなんだと思う。ギリギリの状況でまるで奇跡のように作られた飛行機。僕の頭の中では、最初ポルコ・ロッソがカーチスと何度も戦っていた(「紅の豚」より。あれはゼロ戦じゃないけど)。
話を戻して。
その祖父、宮部久蔵(みやべきゅうぞう)がどのような人物だったのか。若い兄弟が話を聞きに行きながら、その人物像と日本が窮地へ追い込まれていく歴史的背景が明らかにされていく(歴史学習小説としても一品です)。宮部久蔵は、ゼロ戦乗りとして他の追随を許さないほど超一流だったこと、臆病者・卑怯者とどれだけ罵られても「生きて帰る」という信念を一貫して突き通したこと、でも何故特攻で死んだのかということ、愛すべき、愛されるべき人物であったこと。何より、自分が愛する人を愛すという揺ぎ無い信念を持ち続けたこと。
その、人物描写がとても上手くて、久しぶりの時間を忘れる読書だった。そして、唐突に呼吸がぐふっっとなるような軽い嗚咽に近い体験もした。
また、宮部久蔵というある意味恍惚の人を描くことで、その輪郭からもれているその他大勢の人たちや、その大衆を扇動していくメディアや軍部(官僚機構)を時折上手に描き出している。
読み終えて、これが活字であれ、フィクションであれ、宮部久蔵というすばらしい人物に会えて良かったなと心底思っている。それは、人生の折々にふと思い出す映画や本の登場人物のように。生きる気力を簡単に失いそうな時、宮部さんに「生きろ」と言われそうな気が今からしている。