勇気と想像力、そして少々のお金

きれいごとを言わない、をモットーにしてますが、時折言ってます。

「マイ・バック・ページ」

あれは2008年12月の飲み会(シュンポシオン横浜の3次会)にて。酔いどれの(会うときはいつもお互い酔ってる)id:hayakarさんから、「川本三郎のあれはねぇ、ほ、本当に面白いんだよ。でもね〜残念ながら絶版になっててね〜、ふ、古本としてもすごく高値か、ほとんど出回ってないんだよねぇ〜。あったら読んでみてよ、小野さんなんか間違いなく好きな本になると思うんだよぅ・・・ふぅ・・・」*1、とそんな感じで熱弁を振るわれた記憶とともに、この本はいつも頭に張り付いていた。時折思い出してはアマゾンで検索し安く出てないかと探したりもしていた。

マイ・バック・ページ - ある60年代の物語

マイ・バック・ページ - ある60年代の物語


それが再刊行した。
理由はこの上なく明白。映画化されるから。それも、妻夫木聡松山ケンイチの初共演、監督は山下淳弘(「天然コケッコー」面白かったなぁ)という申し分ないメンツで。そりゃ、はやるでしょうねぇ。5月からだそうです。と、その映画の話は置いといて。


本の感想として。
ハヤカーさんの言うとおり、寸分たがわず面白い。その時代の息遣いというか、いや、違う、著者が息を殺しながら暮らしていた(暮らさざるをえなかった)その青臭さ、男臭さが常に漂う。そこがとてつもなくおもはゆい。出てくる人間達も、それぞれに中途半端な物語があって(僕がそうであるように)、生きてて、その何人かは死んでいく。その当たり前の事実に、適当な理由はない。あるのは、それぞれの交差する物語だけ。川本三郎本人は、当時29歳の青年の物語にしては過酷な、いわゆる社会的制裁を受ける。それは、そのまままるっと今でも引き受けていかざるを得ない類の社会的制裁なのだ。記憶としてある限り消えない、ある種残酷な物語だ。そして全て事実の物語。
僕は、基本的にどんな著者に対してもその個人としての生き方や生活にほとんど興味がない、というか、出された作品がほぼ全てでプライベートなんか好きにしてくれ、と勝手に思うタイプなんだけれど、この本に限っては川本三郎という人に対して、純粋に心を持っていかれた。つまり、読みながら字面の向こうの書き手に気持ちを持っていかれたのだ。いいオッサンに、オッサンが心を持っていかれるなんて、なんてこった。
ま、とにかく。ハヤカーさん、ありがとう。そして、再販を教えてくれたゲンノさんの素晴らしいエントリーに心から感謝。

*1:ハヤカーさんの熱弁が中途半端に裸の大将みたいになっているのはフィクションです。