勇気と想像力、そして少々のお金

きれいごとを言わない、をモットーにしてますが、時折言ってます。

海辺のカフカ

村上春樹の小説の中でも、名作「世界の終わりと、ハードボイルドワンダーランド」の匂いを漂わせる、最近ではヒット作だ。
僕自身が昔から考える良い小説とは、子供の頃の‘憧憬’を、なんとか言葉として表現することであり、それが出来ればノーベル賞ものだと思っている。
村上春樹の描く世界は、心の奥底の不確かで、しかしもっとも核となる「なにか」を、必死に探し見つけようとすることに終始しているが、常に主人公の目線は‘公平’である。
村上春樹の描き出す‘闇’(時に井戸)は、読み手をずるずるとその中に引き込んで行き、いつの間にか気が付いたら外に出ている。しかし、入る前と入った後では、何かが変化していて、その‘変化’を読者に訴えかける力がある。
その不確かだけれど、確実にそこに存在する‘なにか’を、幼稚とも思えるストーリーを駆使して、見事に読者のすぐ傍まで引っ張ってくるのである。
一見簡単そうに見える村上春樹のような小説を、書ける人間は確かにいない。

海辺のカフカ (上) (新潮文庫)

海辺のカフカ (上) (新潮文庫)